きらる11「ぼくたちの春」立ち読み <5篇>
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「、の隙間」 小林青ヰ
朝方のかれの背中は
つめたい空気に
ふるえているのか
あるいはこれからやってくる
時間にこごえて
いるのでしょうか
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「みずうみ」 ごくろう君
みずうみが
私の
沈むのを
待っている
私は
みずうみの
まぶたが閉じるのを
待っている
しずかに澄んだ 藍色のみずうみを
まくらもとに置いて
みずうみを眠らせる
私は少し遅れて眠る
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「いってきます」 土屋怜
いってらっしゃい、って
言ってくれるひとのいる
しあわせ
気をつけてね、って
心配してくれるひとのいる
あんしん
だからあたしは 旅立てる
いってらっしゃい
気をつけてね
いってきます
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「ことの次第」 蒼風薫
ある春の日のこと
泉から女のひとが姿を現すから
嘘を答えるようにと
茶色の小鳥が教えてくれた
何も代償を求めずに
言われたとおりに
一番尊い値のそれを
わたしのものだと訴えた
女のひとは優しく肯き
この泉をあなたにあげようと
約束して 姿を消した
、以来わたしは泉の畔で
ずっと待っている
水仙の咲くのを
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「野菜生活」 邑輝唯史
ピーマンだった朝
ごぼうと言われた昨日の昼
もやしっ子と中学時代揶揄され
これまで
土の匂いが抜けたことは一度もない
ハウスに移り住んだのは妹と義理の弟
僕は小さな畑の端っこで
売り物にならんなとこっそり日向ぼっこ
形が悪いとか糖分足りないとか
別に気に入ってもらいたい気持ちも持ち合わせず
キャベツで丸くなる
明日は大根になりませんかと
気遣う青虫がいたが
お好きなだけお食べになってくださいと横になる
天然の無農薬野菜というのが
ひとつだけ自慢の根っこで一年に一度実っては
誇らしげに太った腹を出す
蚊が一休みした一昨日の昼
熊が何気にのぞきに来た昨日の夜
青臭い春はまた芽出度いかいとやってくる
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